恋人の条件「夏美~!」校門を出たところでさつきとやよいに追いつかれた。 あちゃー、つかまっちゃった。またあれこれ聞かれるに決まってる。 「ねえ、またフッちゃたんだって?」 「今度はバスケ部の部長でしょ?超~イケてんのに、なんでぇ~?!」 ・・やっぱね・・。 春から高校生となったあたし達は同じ中学から進学した。ふたりともその頃からの大切な友達だけど、ちょっとお節介なんだよね。 「・・だって、あたしママの代わりに家の事やらなきゃだから、誰かと付き 合ったりしてる暇ないもん。」 いつもの無難な答えで交わそうと試みる。 「またまた~。」 「本当のとこ、どーなのよ」 高校に入ってから名前も知らない他のクラスの男の子に一方的にコクハクされたり、下駄箱に手紙が入ってたりそんなことが時々あった。 今日のバスケ部の部長なんか自信満々て感じで・・。 「夏美ったら、もったいないよー。彼と付き合いたがってるコ、1年でも いっぱいいるよー。」 「うん。本人がそう言ってた。」 ちょっとうんざりしながら答えた。 「ルックスはAクラス、頭脳明晰、スポーツ万能、おまけに資産家の次男 ってオプション付き。これ以上君は何を望むのかね?夏美君!」 二人はその後もバスケ部の彼をほめちぎり、あたしに青春を謳歌しろだの、世界一の罰当たりだのと食い下がる。 だんだんイラついてやけっぱちで、二人を遮りこう言った。 「わかった!いい?聞いて!あたしのピンチに真っ先に駆けつけて、体を張って守ってくれる人、めちゃくちゃタフで強いのにめちゃくちゃ不器用で、思ってることの100分の1も言えない人、親父のように頑固なくせに子供のように素直な人、甘いものがからきしダメなくせにあたしの作ったケーキは食べてくれる人。この条件をクリアした人でなきゃ、だめなの!」 あっけにとられた二人が、顔を見合わせてニヤりとした。 「ふふふ。夏美ぃ、さては誰かいるんだな?すでに・・」 「なっ、なに言ってんのよ!あれはただ・・。」 あたしは自分が言った事の内容に、『誰』を思いながら言ったかに今更気づいてパニクッた。 「そうだよ。具体的すぎ!おっかしーの!!」 二人はまだにやついてる。 「だ、だから違うって!ただ、そいつは気づいたらそこにいて・・、いつもいてくれて・・、でもそれはもう当たり前で、だからとても安心できて・・そもそもそいつは・・」 「ひゃー!あなたそれはもう告白よ!」 「語るに落ちてる。」 ・・違うよ、そんなんじゃない!だってあいつは、あいつとなんか・・・。 「ねえ、夏美、あなた今すっごくいい顔してるよ」 「え?」 「ずばり!あなたは恋をしてます!」 やよいの一言が頭の中であいつの顔と一緒にくるくる回りだす。 恋??恋って??そりゃ姿かたちはともかく、あそこまで「男」って 感じのひと、周りにいないよね。ぶっきらぼうで無愛想でいっつもしかめっ面で・・・でも本当はすごく優しいひと。 何よりあたしのために血を流すことを決して・・・恐れないひと・・。 あたしを守るためなら、死をもいとわない・・そう、彼ならきっとそうだ。 雷に打たれたようにその瞬間に悟った。 あたしはバカだ。ずっと前からそばにいたのに・・・。ううん、本当はわかってた。でも、自分でそれを認めるのが怖かったんだ・・。 「おっと!もう塾に行く時間だ。」 唐突にさつきが言った。 「あたしもバイトに遅れちゃう!じゃあね!夏美!」 やよいも急に急ぎ足になる。 二人とも、立ち止まったまま動けないあたしと、ざわつくあたしの心を置き去りにしたまま行っちゃうの? あたしの思いが通じたかのように二人がこっちに向き直った。 「一人で悩め!」と、さつき。 「ま、答え出てるけどね。」とやよい。 手を振る二人の背中は夕日の中に溶けて見えなくなった。 家の前まできたら焚き火のにおいがした。庭に回ると、見慣れた小さな赤い背中が焚き火の前にでんと座ってる。全神経が火中の物に注がれているらしく、私には気づかない。 おいおい、それじゃ軍人失格だよ。 ああそうだ。もうひとつ必要不可欠な恋人の条件があるのよね。 『私のために最高の焼き芋を焼いてくれること・・』 そんな事を思いながらこのいとしい宇宙人に向かってしっかりと一歩踏み出した。 ジャンル別一覧
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